零ノ章

 私は恵まれる人だ、ずっとそう思った。魔術の才能がない代わりに膨大な魔力がこの身に宿っているお陰で、国の結構いい学院に受かって、そして何事もなき卒業した。

 後押ししてくれるちちとはは、手を携えてくれるともだち、今いる教会とて、周りの皆はずっと優しくしてくれた。

 自分の人生は、このように静かに流してゆく。と、そう思っていた。

 振り返れば、学院にいったごろ、私は気付いたはずだった。ただ能天気に見ぬふりしたかもしれない。

 「()()()、いつここにいったんだ」

 魔術訓練の授業で、友人の言葉で理解不能な私だった。私はただ寝坊しちゃって後ろからこっそり席に座っただけど。

 「あれ、探知(ディテクト)魔術の術式を間違ったかな」

 なにをいっているか分からない顔をしている私を見て、ぼそぼそ話す友人だった。

 卒業後、魔力量が大魔術師(アークウイザード)レベルに達した私けれど、魔術そのものはただの中位魔術師(ミドルウイザード)ので、とんでもない魔術機関なんてやっぱり無理だったね。

 別に出世に熱心しない私だし、安らぎに人生を送ればそれはそれでいいと考えた。だからね、卒業した間もなく、王城にあるダイラドゥオ孤児院を就職先にした。

 暇で静か、加えて初々しい子供皆の笑顔。ここは私にての天国かもしれない。

 この頃、流石鈍感バカと言われた私とて、ずっと周りに秘匿された、その一抹の異様を気付いてしまった。

 明らかに。

 「瓦莱里娅(ガライリア)さん、おはよう」

 同じ孤児院のシスターさんの視線は私の顔に止まった間もなく、下に移って再び止まった。正確に言うと、私の手に持っている箒に止まった。

 「ガライリアさん、また寝坊しちゃったの。今日の掃除当番は私だよ」

 「そ、そうなんだ。ごめん、また間違った」

 「そうよ、本当」

 気まずい笑顔を作ってそそくさ出た私。

 昨日がご飯を作るのは私だから、道理で今日の掃除当番は私に回るはずだった。

 確か、昨日もこのシスターが当番だっけ。

 河辺で顔を洗ってスッキリしてからの帰り道で、孤児院の前の芝生に鬼ごっこではしゃいでいる子供が見えた。

 教会と併設する孤児院だし、ここにいる子は殆ど何の事情で独りぼっちになり受け取られた。

 冬の時、ここにくる子も少し増える。孤児院もそれで少し賑やかになる。

 子供たちが大きくなったら、もし魔術の才能があれば、私たちが魔術学院へ推薦し、別の分野で才能が芽生えの子も大体同じの流れ。

 当然ね、成人になって、ここに残る子もあるだよ。さっき話しかけてくれるシスターがそうだよ。院長に受け取られここに落ち着いた。

 子供たちの溢れる活気に取られたか、つい見惚れてしまった。

 あれれ、この子達……

 何だか、昨日も同じ光景を見た気がする。

 気のせいかな。

 その時、一人の男の子がばたっと転んでしまった。よろよろと立ち上がり服をはたいてからすぐ笑顔になって鬼ごっこの隊列に復帰した。

 その転んだ動き、立ち上がり、更に口にした話……

 全部、昨日見たのと同じだ。

 似つかわしいといっても妥当ではないほど完全一致のその一連の動き。

 その時の私、ただ水面に浮かんでいる葉のように流されたまま、この何かに定められた毎日を過ごした。

 私にての七日後、この悪夢は、やっと終わりに迎えた。

 この後も他のシスターにこれについて話したが、また寝坊しちゃったかと笑われた。これはさておき、この奇妙奇天烈な話を物語なんかに書いてみたら、子供たちが好きかもねっていう意見は確かに行けそう。

 冬去りて春来たり、私がこの孤児院で新たな一年を迎えた。

 この一年間またも先みたいなのことが何度も繰り返したが、そもそも対応法がないから、悩んでも何も始まらない。まあ、体感の時間が他人より伸びているが、別にこの仕事に何か文句もないし、それに休暇の日も更に長くなるし、有益無害ということね。

 だが、運命というのは、分からないものだ。

 このめぐり逢いも。

 私はこの日もいつものように孤児院前の街道でいつもの掃除をしている。

 ぼんやりしすぎるか、手に持っていた箒に躓いて転んでしまった。

 「痛あああー」

 よろよろと立ち上がると、なんと、いつか後ろにちちゃい女の子が立っている。

 よく見ると、この子の背丈は孤児院の子供たちと大差はないが、その漆黒の黒髪と血液のように赤い瞳から醸し出した凛々しい気質、またその端正な顔立ちからして、まるで深窓に育ったどこかのお嬢様みたい。

 所謂高嶺の花って、こんな人か。

 しかし、行く道がどこかの馬の骨知らずシスターにはだかれたせいか、その端正な顔は見る見るうちに、しわを寄せ不愉快に満ちた。

 「てめぇ、異能者(ホワイト)か」

 音量はそんなに大きくないが、肉食獣特有の怒気が確かに伝えてきた。

 その時、おどおどしている私はまだ、自分がとんでもない事件に巻き込まれたことにちっとも気づいていなかった。

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